※この記事は弊社オンライン講座リュケイオン・オンラインの記事を転載したものです
こんにちは。
総合進学塾クエスタの大村です。
記憶には
Ⅰ.思い出せなくなっても、まったくの振出しに戻るわけではない(1回目の学習は無意味ではない)
Ⅱ.記憶は短時間しか残らない情報と長期間残る情報の組み合わせでできている
Ⅲ.ほかの情報と結びつけることによって、記憶は長期化される
Ⅳ."脳の同じ情報に繰り返しアクセスする行為"を繰り返せば繰り返すほど、記憶は長期化される
という性質があることが分かりました。
今回は、忘却曲線を利用した勉強方法についてのよくある誤解や、
この性質をどのように学習に生かしていったらいいのかについて解き明かします。
まず
について切り込みます。
多くの記事では、
最適な復習のタイミングが24時間後・1週間後・1か月後であるという趣旨のことが
「カナダのウォータールー大学の研究」として、まことしやかに取り上げられています。
確かにウォータールー大学という学習や記憶の分野で権威のある大学は存在しますが、
次の2つの理由で、このお話はまゆつば物であると断言します。
ウォータールー大学の学生サービスのホームページに、
この言説の元になっていると思われる記述がありますが、
これは論文とか研究成果の発表などと呼べるような代物ではありません。
このページの元になっているはず(研究成果が出ているのなら)の、
"24時間・1週間・1か月後"という"最適な復習のタイミングを示す"論文が無いか探してみると、
ウォータールー大学の名前で発表された論文はおろか、
いかなる名義の元でもそのような論文は存在しません。
件のページにも出典の記載がなく、
断言もできませんが、独自の研究を行ったという書き方ではなく、
「忘却曲線がどのような意味を持つか」という形で書かれていることも併せて考えると、
専門家ではない大学のスタッフが例の忘却曲線のグラフを見て、
独自に解釈した内容である可能性が高いです。
(もし「論文は存在します。出典を明示できます。」という方がいらっしゃったらぜひご連絡ください)
「権威ある専門家の見解」として取り上げられる内容が必ずしも真実ではないことは、
「ラクッコピコリン」や「発掘あるある大事典」の例を挙げるまでもないでしょう。
真実かどうかを見極めるためには、出典までたどって自分の目で見ることが最低条件です。
元論文を見つけられないというだけが理由ではありません。理屈に合わないのです。
人間の記憶は一様ではなく、ごく短時間しか保持できない情報から、
長期間保持できる情報までの組み合わせでできていると考えられています。
これを記憶の多重貯蔵モデルといい、
研究が進むにつれ初期の単純な3段階モデルとはだいぶ形は変わってはいるのですが、
証拠になる実験や論文がいくらでも存在しますし、
前回の記事で紹介したようにエビングハウスの忘却曲線自体がそのモデルの妥当性を示唆するものでもあります。
ここで「ごく短時間しか保持できない」というのはどれくらいの短時間かというと、
数分は維持されるものから、数秒も維持できないものまでいろいろです。
(片や「長期間」は最大で半永久です)
勘の良い方はもうお分かりと思いますが、24時間どころか授業が終わるまでにすでに失われている情報がそれなりにあるのです。
しかも忘れた本人は忘れたということを自覚できませんから、失われたまま試験本番の日を迎えることになってしまいます。
(だからこそ授業中にメモを取ったり、反芻したり、問いを投げかけてみたりという行為が学習で成果を出すためには必要不可欠なんです)
この事実と「最適な復習のタイミングは24時間後」という言説はまったくかみ合っていません。
「1時間も経たないうちに失われてしまう情報がそれなりにある」ことを考えれば、
授業の内容は板書だけでなく先生が話した内容やクラスメイトのミス、
わいてきた疑問など、全て逐一メモしておいたり、
先生の説明を反芻したりする必要がありますが、
板書を書くだけでも大変なのに、そんなことは準備をしておかなければ不可能です。
例えば、
英語なら本文を書きうつす、単語の意味を書いておく、自分の訳を書いておく
数学なら教科書の問題を写す、わからないなりに解いてみる
などを事前にやっておくのです。
しっかり準備をしておけば、大半の内容は事前に書いておけるわけですから、
話の内容をメモしたり、先生の説明を反芻したり、
疑問点を書いたり、自問自答したりといった余裕が出てくるというわけです。
前回学んだ通り、繰り返しやほかの情報との関連付けによって、
記憶を強化することができます。
これ以外で記憶を強化できるのは、感情を揺り動かしたり、
本能的な恐怖を感じたりした場合だけです。
それ以外の方法ありません。
この中で自分でできるのは、
「繰り返しやほかの情報との関連付け」つまり復習というわけです。
内容を反芻したり、湧いた疑問を解消したり、関連する知識をつけ足したり、
類題を解いたりすることはこれを実行していることになります。
上記で述べた通り、最適な復習のタイミングが24時間後、1週間後、1か月後という根拠は存在しません。
分子生物学が出した答えは「数秒から数時間」です。
それ以上間隔をあけた刺激で、(そうでない場合と比べて)分子生物学的な差異が生まれるとする知見はおそらくありません。
これは、すぐに失われてしまう情報があることとも符合しますから、合理的な結論です。
よって、授業終了までに失われる情報を補うために授業内容を逐一メモしたうえで、
「授業直後に復習する」のが最適な復習のタイミングです。
また、エビングハウスの忘却曲線をそのまま当てはめた場合は、
1時間後でも44%の節約率なので、
休み時間にちょっと復習しただけでは足りないことになります。
もちろん、実際の学習では背景知識とのつながりなど様々なパラメータがあるため、
エビングハウスの実験のものをそのまま当てはめることはできないのですが、
実際の節約率が何%になるかは未知数ですので、
「放課後帰ったら復習」も必須と思っておいた方がいいでしょう。
上記で、間隔を開けた場合、
そうしたことによって分子生物学的差異が現れることはないと書きましたが、
それはあくまで単純な情報のインプット、要は単純暗記についてのみ当てはまるものです。
インプットした知識をテストや会話などで再想起する"active recall"型の復習には当てはまりません。
"active recall"型の復習の最適なタイミングは最初の学習から一日後で、
やり方は「確認テスト→教師役のフィードバック」というやり方が最も効果的であることが、
これまた実験で明らかになっています。
さらに、この"active recall"型の復習も繰り返すことにより、
より高い効果を発揮するわけですが、
等間隔に間をあけて復習するよりも、
間隔を少しずつ広げていく"spaced repetition"という戦略が有効であることが分かっています。
どのくらいの間隔を開けるのが最適化というのは、
復習する内容の複雑さ・得手不得手・個人の能力により変わりますが、
一般的には1日後→その12日前後
くらいの間隔がより効果を発揮するようです。
実はこの手法、有名語学アプリの"Duolingo"でも取り入れられています。
「短期間で繰り返した方が知識の定着が強化される」という記憶の仕組みを踏まえると、
「毎日10個ずつを10日かけて100個」よりも
「毎日同じ100個を10日かけて10周」の方が良いということになります。
1回で覚える必要もないので、1回で覚えられないことはあまり気にせず、
とにかく大量・短時間・繰り返しを意識してやってみてください。
いかがでしたか?
記憶の仕組みを踏まえた効率の良い学習をすることで、
学力を上げることはもちろん、
「勉強以外」の大切な経験をするための時間を増やすことができます。
うまく利用して充実した学校生活を楽しんでくださいね!
リュケイオン・オンラインでは、このような知見を活かした勉強法の指導やコーチングを行っています。
無料体験も可能ですので、ぜひご活用ください。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。