こんにちは。
春江中・坂井中・森田中(九頭竜中)生にお馴染み、
福井県坂井市春江町の学習塾、クエスタの大村です。
本日は英文読解のテクニックとして知られる「スラッシュリーディング」についてのお話です。
みなさんは、一度は「スラッシュリーディング」という言葉を聞いたことがあると思います。
そして学校の先生・塾や予備校の先生含め、多くの指導者がこの読み方を推奨していて、
実践している生徒さんも多いことと思います。
しかし、私は「スラッシュリーディング」はあまり意味のないやり方で、
それだけではなく有害ですらあると考えています。
そう思うようになったのは、
英語で伸び悩む大学受験生の指導を通じて感じたことが理由です。
※スラッシュリーディングとは
スラッシュリーディングとは、英文をスラッシュで区切り、
悪の権化のように言われている「返り読み」を防ぐための、
頭から順に訳読していくという
英文読解の魔法の杖のように祭り上げられている訳読テクニックです。
英語苦手組の大学受験生の指導をしていて、ひとつ気がついたことがあります。
英語長文が苦手な生徒の多くに共通しているのが、
英文をヘンなところで区切って頭からテキトーに日本語に変えていく
というメチャクチャな読み方をしている
ということです。
文構造をちゃんと見なさい。その変な読み方をやめなさいといくら言っても
習慣として身についてしまっているので治りません。
なぜそのような読み方をするのか、
それを紐解いていくと、一つの答えにたどり着きます。
そう、スラッシュリーディングの誤った実践が諸悪の根源です。
正しい場所にスラッシュを引くことが出来ず、
頭から日本語に変えて戻らずに読むということだけ実践していたことが原因だったのです。
一度身についてしまったものを根底からひっくり返すのは大変です。
半年ではどんなに頑張っても絶対に無理。
1年をかけても矯正するのはとても難しいです。
そうなってしまう危険を冒すほどのメリットがスラッシュリーディングにあるのか。
そこまでのメリットがないならスラッシュリーディングははじめからやらないほうがいい。
そしてそのようなメリットはスラッシュリーディングにはない。
というのが私の達した結論です。
スラッシュリーディングというのは実は学習者や受験生が英文読解をするために考案されたテクニックではありません。
初出は不明ですが、翻訳家や同時通訳の間で仕事の必要上、自然発生的に誕生したテクニックと考えられています。
長い文章を翻訳するとき、正しくスラッシュで区切って日本語に変えてから訳し下すときれいな訳ができます。
特に同時通訳は、分詞構文や関係詞節などで数珠のように繋がれた一文を言い終わるまで待っているようでは、
とても間に合いません。
訳している間にドンドン次の文に進んでいきます。
こんなときに役に立つのが、英文を適当なところで区切って順次訳していくというテクニックであり、
それを紙の上でやるのがスラッシュリーディングというテクニックなのです。
翻訳家が使っているから悪いのか。
翻訳家のテクニックを受験生が使ってもいいのではないか。
そんな声も聞こえてきそうですが、ここではとりあえず、
実務上の必要から誕生したテクニックであって、
受験生が英文読解するために最適化されたものではない
という認識だけ持っておいてください。
以下は、生徒さんがやらかした「スラッシュリーディング」の実例です。
※この文は高校3年生の教科書Element EC Ⅲから引用したものです。
// When / you read a report by / a company executive / that the average pay of the people who work in / his company is so much,/ the figure may mean something and it may not.//
いつあなたはレポートを読んだのか。会社の経営者があの平均的な給与の人々が中で働き、彼の会社はとても多く、その数字の意味は何かかもしれないし、何かでないかもしれない。
どうです?ひどいでしょ?
コレ、県内の偏差値60オーバーの中堅高の3年生の生徒さんの訳したものです。
正しく訳すためにはこのようにスラッシュを入れる必要があります。
// When you read a report / by a company executive / that the average pay of the people / who work in his company / is so much /, the figure may mean something / and it may not.//
その上、更にwho~がpeopleに係り、that~companyが is so muchの主語になり、by~executiveとthat~so muchが同時にreportに係り、という関係を別途理解する必要があります。
そこで初めて、
(自分の会社の給与の平均がとても高いという会社経営者による報告書を読んだとき、その数字には何らかの意味があるかもしれないし、無いかもしれない。)
という正しい訳出が可能になります。
この生徒さんは正しいところにスラッシュが引けず、この関係を正しく理解できていないために、
わからない単語は辞書で全て解決したにも関わらず、こんなメチャクチャな訳をしてしまったのです。
正しくスラッシュが引けなければ意味がないし、正しい位置にスラッシュを引いたとしてもそれだけでは正しく読めないということがおわかりいただけるかと思います。
では、なぜその生徒さんはそのような悪癖を身に着けてしまったのでしょうか。
答えは中学時代のスラッシュリーディングの習慣に原因がありました。
中学時代には、1層までの複文は出てきますが、修飾関係が多重に重なるような複雑な文は出てきません。
スラッシュリーディングにはそもそも、
日本語と英語の語順の違いをうまく処理できないという弱点がありますが、
修飾関係が重なっていなければ難なく読むことが出来てしまいます。
/ If someone / who knows me / is here,/ he or she may think / I've changed a lot, / but actually it's not true.
県内の高校入試までは、Max難しい文でこれくらいのもんです。
これを頭から適当に日本語に変換していけば簡単に読めます。
もし誰か / 私を知っている / がここにいたら、/ 彼または彼女は考えるかもしれない / 私がとても変わったと / しかし実際は本当ではない。
こんな感じです。
このままの順番で簡単に読めますし、これ以外の区切り方は思いつかないのではないでしょうか。
こういう中途半端な成功体験のせいで、「スラッシュリーディングで読めた」という錯覚を起こし、習慣化してしまったのです。
スラッシュリーディングというのは先程もお話している通り、英語を日本語に変換して読むためのテクニックです。
日本語に変換するやり方ではどんなに頑張っても120wpmが関の山です。
このスピードで読めれば昔のセンター試験は余裕で完答できましたが、
今の共通テスト英語リーディングは昔に比べると圧倒的に語数が増えています。
とある予備校の試算では、共通テスト英語リーディングで、余裕を持って完答するために必要なリーディングスピードは150wpmです。
実際、多くの受験生が全部読まずに、解法のテクニックに頼って問題を解いています。
スラッシュリーディングでは結局、大学入試で余裕を持って戦えるスピードには到達できないのです。
(結局、訳読の技術ではなく「英語を英語のまま読む」という技術を身につける必要がある)
日本語と英語はそもそも語順が違います。
日本語はSOVで英語はSVOというだけではありません。
修飾語も日本語では前からですが、英語では後ろから係ります。
そもそも語順が全く違うのですから、日本語に訳す場合は結局のところ順番を変えないといけません。
複雑な文になればなるほど、語順を正しく組み替えないと意味のわからない日本語になってしまいます。
返り読みが悪いのではありません。
順番の違う言語を行き来するのですから返り読みが当然なのです。
完全に返り読みを回避するには、結局のところ日本語を介さないこと、つまり、
「英語を英語のまま読む」という技術が必要になってくるのです。
スラッシュリーディングがダメならどうしたらいいんだ!という声が聞こえてきそうですが、
ご安心ください。
ガッツリ返り読みをしてもらって大丈夫です。
高校に上がったらできるだけ早い時期に、英語を英語で理解するという方向に方向転換したほうがいいですが、
訳し読みしかできないうちは返り読みをするのが正解です。
返り読みをしても90wpmくらいには頑張れば到達可能です。
完答するために80wpmでギリぐらいなので、90wpmもあれば県内の公立高校入試ではそれなりの余裕を持って戦えます。
複雑な英文でも正しく読めるようになるまでは、ガッツリ返り読みをしてもらって、
文構造を100発100中で正しく読み取ることに勉強のベクトルを向けるべきです。
正しく読めるようになったら、訳すのを止め、英英辞典を使い、
英語を英語のまま理解するステップに上がりましょう。
高2上がる頃までにそこまで行けていれば上出来です。