この記事は以前に書いた記事を再構成したものです。
脳に必要な栄養素と言えば、「ブドウ糖」を挙げる方が多いと思いますが、
実は食事で摂取しなければいけない栄養素としては重要度が下がります。
ブドウ糖は体内で脂肪やタンパク質から合成したり、
貯蔵したグリコーゲンから取り出したりすることもでき、
カロリーさえ十分ならば特に意識して取る必要もないものだからです。
しかし、正常な脳の活動を維持するのに必要な栄養素はブドウ糖以外にもたくさん存在します。
この記事では、塾長が独断と偏見で脳の機能と学力に特に重要な栄養素7つを選び、
そのあらましをご紹介します。
独断と偏見とは言っても、
「すべての栄養とバランスが大事だけど、敢えて選ぶ」という意味で、
根拠がないわけではありません。
むしろ、「不足すると認知機能や学力の低下が見られるという明確なエビデンスがある」という基準で選んだ7つです。
お子さんの学習能力をサポートする食事作りに、ぜひお役立てください。
あくまでもこれが不足すると決定的な影響があるというだけで、
たくさん取れば頭が良くなるというものでもありません(むしろ過量摂取は過剰症のリスクがあります)ので、
そのあたりを御理解の上お読みください。
タンパク質は、脳を含めた体のあらゆる組織を作る材料となる栄養素です。
脳ではそれだけでなく、タンパク質の分解物であるアミノ酸が神経伝達物質の原料という重要な役割を担っています。
不足する場合は筋肉を分解してでも調達されるくらいの重要成分です。
タンパク質不足は認知機能の低下だけでなく、
学校での不適応行動やうつ病などのリスクとの関連が示唆されています。
脳での働きの不可欠性に加え、日本人の場合は不足している人がほとんどで、
ダイエットでも不足しやすい栄養素なので、当記事では最重要栄養素の一つと認定します。
多く含まれる食品: 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品など
ビタミンB群は、脳のエネルギー代謝、神経伝達物質の合成、
神経ネットワークの維持に重要な役割を果たしています。
B群の不足はいずれも神経の機能に深刻な影響をもたらしますが、
特にビタミンB1, B6, B12, 葉酸については不足による認知機能や学力の低下に関してのエビデンスが多数あります。
ビタミンB群は水溶性のビタミンであるため、
体の中に長期間留めておくことが出来ず、
毎日の食事で十分な量を取る必要があります。
不足した場合の深刻さ、不可欠性、水溶性ビタミンであることなどを踏まえ、
これも最重要栄養素の一つとして位置づけます。
多く含まれる食品: 豚肉、レバー、うなぎ、玄米、大豆製品など
鉄欠乏による貧血が認知機能や学力に悪影響を及ぼすことや、
鉄分不足の解消によって認知機能が改善されることを示す複数の研究があります。
さらに、シナプスの結合の形成に欠かせない栄養素であり、
乳児期の不足は長期的な悪影響をもたらすことも分かっています。
特に月経が始まって以降の女子は男子よりも鉄分の要求量が多く影響も受けやすいので、
これも重要な栄養素の一つです。
ただし鉄分は過剰症にも注意が必要です
亜鉛は、神経伝達物質の調整や、シナプス可塑性、
酸化ストレスからの保護など、様々な脳機能に関与しています。
亜鉛の不足が認知機能や学力に悪影響を及ぼすことや、
亜鉛不足の解消によって認知機能や学力が改善されることを示す複数の研究があります。
亜鉛も植物性食品を多く摂取する日本人にとって不足しがちな栄養素の一つです。
必須脂肪酸であるDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は、
脳細胞膜の構成成分で、かなり昔から「脳に良い」と語られてきた成分です。
従来は不足すると認知機能面で問題が起こるという次元でのエビデンスしかありませんでしたが、
最近はDHAとEPAを積極的に取り入れることに関して肯定的なエビデンスが蓄積されつつあり、
特にADHDに対しての効果は注目に値します。
魚を多く食事に取り入れていれば不足することはありませんが、
逆に少ない場合は不足する可能性の高い栄養素でもあります。
ビタミンDは、カルシウムの吸収を促進する働きで知られていますが、
最近の研究では脳の神経細胞の保護や神経伝達の調整にも関与していることが分かっています。
ビタミンDが不足すると、学習能力や記憶力の低下、うつ病のリスク増加などが懸念されます。
一方で、ビタミンDは日の光を浴びることで体内でも合成され、
ビタミンD過剰摂取は命にも係わる深刻な副作用があるので、
サプリメントなどによる積極的な補充には注意が必要な栄養素でもあります。
食事を通じて摂取するのがベストな栄養素です。
ヨウ素は、甲状腺ホルモンの合成に欠かせない栄養素です。
甲状腺ホルモンは、脳の発達や神経系の機能に重要な役割を果たしています。
ヨウ素の不足が認知機能や学力に悪影響を及ぼすことや、
ヨウ素不足の解消によって認知機能や学力が改善されることを示す複数の研究があります。
ただし、日本人の場合は海藻や魚介類を食べる食習慣があるため、
不足することは殆どありません。
むしろ過量摂取による過剰症に注意が必要でしょう。
そのためこの記事では最下位に位置づけています。
多く含まれる食品: 海藻類、魚介類、牛乳、卵など
「1種類の食品でこれらのうちヨウ素以外のものを多く含んでいる食品という基準」で脳にいい食材TOP5を選んでみました。
無敵にも思えるレバーを抑えて堂々の1位に輝いたのがサバ缶です。
葉酸がやや少なく食物繊維が少ないという弱点はありますが、
DHA含有量は1缶3000mgで群を抜いています。
足りない葉酸と食物繊維を豊富に含むモロヘイヤやほうれん草と組み合わせれば、死角は存在しません。
サバ缶だけでなく、カツオ・マグロ・イワシ・鮭・サンマも同様の栄養特性を持っていますが、
手軽さと汎用性の高さという意味で敢えてサバ缶を選びました。
万能食品の豆類を抑えて堂々の2位に躍り出たのはレバーです。
お肉や豆類には少なめの葉酸・ビタミンDを豊富に含み、
更にタンパク質・亜鉛・鉄・コリンの含有量も高く、
DHA・EPAと食物繊維が少ないことを除けば完璧な食品です。
但し、脂溶性ビタミンのビタミンAの含有量が高くとり過ぎには注意が必要です。
特に豚レバーが栄養的には優れています。
豆類、特に大豆製品はタンパク質を豊富に含み、
トリプトファン・芳香族アミノ酸、コリンを豊富に含みます。
ビタミンB群、鉄も豊富に含まれ、死角はビタミンDとDHA・EPAのみです。
私も「脳に良いおやつ」として煎り大豆を喫食しています。
お肉は言わずと知れたタンパク質の宝庫ですが、
さらに亜鉛や鉄分、ビタミンB群も多く含んでいます。
特に赤身肉はタンパク質含有量が高く、脳に良い食品と言えます。
ビタミンCや葉酸・食物繊維や一部のミネラルが少ないため全体としての栄養バランスは大豆にやや劣りますが、
動物性タンパク質が不足している場合に特にうつ病のリスクが高くなることも知られており、
植物性たんぱく質には無い脳へのメリットがありそうです。
牛肉と豚肉は神経伝達物質ドーパミン・ノルアドレナリン・セロトニンの原料である
芳香族アミノ酸・トリプトファンの割合が高く、
牛肉にはビタミンB12・亜鉛、豚肉にはビタミンB1・DHA(魚ほどではない)、
鶏肉は低脂質で神経伝達物質アセチルコリンの原料であるコリン含有量が高いという特徴がそれぞれあり、
ローテーションして食事に取り入れるのが良さそうです。
モロヘイヤ・ブロッコリーはビタミンB群と食物繊維を豊富に含みます。
特に葉酸と食物繊維の含有量は他の野菜を圧倒します。
野菜類の中では比較的タンパク質が多く含まれているという特徴もあります。
単体ではDHA・EPA・鉄・亜鉛が足りませんが、
第1位のサバ缶単体で不足する葉酸・食物繊維が豊富に含まれており、相性の良い野菜です。
サバ缶とモロヘイヤorブロッコリー+炭水化物があれば全栄養素がほぼ充足できます。
モロヘイヤやブロッコリーに比べるとやや劣りますが、ほうれん草も似た栄養特性を持っています。
日本人は魚・海藻を食べる習慣があるためヨウ素が不足することはほとんど無いため、
ランキングには入れていませんが、ヨウ素も脳にとっては重要な栄養素の一つです。
海苔にはこのヨウ素が豊富に含まれています。ビタミンB12が豊富なのも特徴です。
魚・海藻を普段の食事であまり食べていない方は、海苔を食事に取り入れてみるといいかも知れません。
クックパッドから厳選した「脳にいいレシピ」をご紹介します。
これらのレシピは試験の前日に食べたからどうという類のものではありません。
普段のメニューと組み合わせて日々バランスの良い食生活を維持してください。
脳にいい食材: サバ缶 ブロッコリー 卵
賄える栄養素:DHA・EPA ビタミンB群 ビタミンD 鉄 亜鉛 タンパク質 食物繊維 コリン 他
おススメ度:★★★★★★
脳にいい栄養としてご紹介した栄養素をほぼ完全に賄うことが出来ます。
卵でコリンも賄えるというおまけつきです。
副菜として使いやすく脳にいいレシピ最高金賞を授与します。
脳にいい食材: サバ缶 モロヘイヤ
賄える栄養素:DHA・EPA ビタミンB群 ビタミンD 鉄 亜鉛 タンパク質 食物繊維 他
おススメ度:★★★★★
こちらも脳にいい栄養としてご紹介した栄養素をほぼ完全に賄うことが出来ます。
夏の暑い時期にもさっぱりといただきます。
脳にいい食材: サバ缶 ブロッコリー
賄える栄養素:DHA・EPA ビタミンB群 ビタミンD 鉄 亜鉛 タンパク質 食物繊維 他
おススメ度:★★★★★
こちらも脳にいい栄養としてご紹介した栄養素をほぼ完全に賄うことが出来ます。
お手軽にできるあたりが高ポイント。
JA全農長野さんが公開しているレシピです。
脳にいい食材: 豚レバー ブロッコリー
賄える栄養素:DHA・EPA ビタミンB群 ビタミンD 鉄 亜鉛 タンパク質 食物繊維 他
おススメ度:★★★★★
こちらも脳にいい栄養としてご紹介した栄養素をほぼ完全に賄うことが出来ます。
上記3つは副菜ですが、こちらはメインとしても戦えます。
脳にいい食材: モロヘイヤ ひよこ豆
賄える栄養素:ビタミンB群 鉄 亜鉛 タンパク質 食物繊維 コリン 他
おススメ度:★★★★★
こちらはDHAとEPA・ビタミンDが足りていませんが、
カレーなので具材のアレンジもしやすく、
DHA・EPA強化の卵やサバ缶を加えればDHA・EPA、
キノコを加えればビタミンDもカバーできます。
(ビタミンDは過剰も怖いので、無くてもいい場合もありそうです)
リンク先のレシピはかなり本格的なものですが、水煮のひよこ豆缶やカレー粉・カレールーを使っても全然いいと思います。
動物性の具材無しで作れるので、ベジタリアンの方やダイエット中の方でもいけます。
脳にいい食材: 豚レバー ブロッコリー
賄える栄養素:ビタミンB群 ビタミンD 鉄 亜鉛 タンパク質 食物繊維 コリン 他
おススメ度:★★★★
こちらはDHAとEPAのみ足りていませんが、それ以外の栄養素はほぼ完ぺきに補うことが出来ます。
もともと守備範囲の広い豚レバーに加え、キノコでビタミンD、ブロッコリーで葉酸と食物繊維がカバーされています。
しかも子どもの好きなカレー味。
魚が苦手なお子様にもお勧めできるメニューです。
タンパク質が脳に必要な栄養素であることはすでにお話しましたが、
タンパク質の中でも特に乳清タンパク質(ホエイプロテイン)は「脳に良い」優れたタンパク源です。
理由は4つあります:
このような理由もあって、私は大事な試験の前日の夜には就寝の1時間以上前にホエイプロテインを飲み、
トイレを済ませてから就寝するようにしているのですが、
ぐっすり眠れてお通じも快調で朝から冴え冴えなので、
これが大変効果的だという実感があります。
そのため毎年受験生にも「秘策」として伝授していますが、験生からの評判も総じて良いです。
ただし普段食べ慣れていないものをいきなり大事なときに摂取すると体調を壊す可能性もあるので、
試験前日にいきなりやるのではなく、普段調子が悪いなというときに試してみるようにしてください。
なお、試験日の当日の朝に乳製品を取ることはあまりおすすめしません。
セロトニンが過剰に分泌されると、中枢性の疲労感を誘発し、眠気が出てしまう恐れもあるからです。
この記事では、塾長の独断と偏見で選んだ、
学力維持に本当に重要な7つの栄養素をご紹介しました。
これらは、「たくさん摂れば頭が良くなる」魔法の成分ではなく、
「不足すると脳の機能や学力に明確な悪影響が出る」という点で共通しています。
特にタンパク質やビタミンB群は、脳の基本的な働きを支える最重要プレーヤーです。
そして、これらの栄養素を効率よく摂るための「脳に良い食材BEST5」として、
サバ缶(圧倒的1位!)、レバー、豆類、赤身肉、ブロッコリー・モロヘイヤを挙げ、
具体的なレシピもご紹介しました。
最も大切なのは、特定の栄養素に偏るのではなく、
これらの重要な栄養素を「不足させない」ようにバランス良く日々の食事に取り入れることです。
ビタミンDやヨウ素、レバー(ビタミンA)のように、摂りすぎが害になるものもあります。
あくまでも「バランス」が鍵です。
この記事が、お子さんの健やかな脳の発達と学習能力をサポートするための、
日々の食事作りのヒントになることを願ってやみません。